「会社内転勤」の形態でベトナムにおいて勤務する外国人労働者の義務およびリスク
(2025年8月7日施行の政令第219/2025/NĐ-CP号に基づく更新)
KMC Consulting Company Limited によって
1.「会社内転勤(Intra-Corporate Transferee – ICT)」の概要
「会社内転勤」とは、外国人がベトナムで勤務する形態の一つであり、政令第219/2025/NĐ-CP号の第2条1項b点および第7条13項b点に規定されています。これによると、外国人労働者は、派遣される前に少なくとも連続12か月間、海外の会社に勤務している必要があります。そのうえで、同一会社のベトナムにおける商業拠点(たとえば子会社、支店、または駐在員事務所など)に派遣されることになります。
この形態の本質は、労働関係が引き続き外国会社との間で維持される点にあります。一方、ベトナム法人は単に受入先の機関であり、直接の雇用主ではありません。したがって、ベトナム法人はICT労働者と労働契約を締結してはなりません。
2. 労働許可証申請時の義務
ICT労働者の場合、労働許可証には勤務形態として「会社内転勤(Intra-Corporate Transferee)」が明記され、「労働契約の履行」とは区別されます。
ベトナム法人は労働契約を締結する必要はなく、以下の書類を提出するだけで足ります。
- 外国会社が外国人労働者を一定期間派遣することを示す派遣書または文書
 - 当該外国人労働者がベトナムにおいて勤務する直前に、少なくとも連続12か月間、外国会社に雇用されていたことを証明する書類
 - 親会社と子会社の関係を証明する資料(例:投資登録証明書、会社登録証明書など)
 
これらの書類が、「会社内転勤」形態による労働許可証申請の根拠となります。
2025年8月7日以降、政令第219/2025/NĐ-CP号が施行された後に、労働許可証に「会社内転勤」と記載されているにもかかわらず、ベトナム法人が労働契約を締結した場合、労働許可証の内容と矛盾することになります。そのため、労働当局から労働許可証の再発行を求められたり、許可された勤務形態と異なる形で労働者を使用したとして行政処分を受ける可能性があります。
一方、2025年8月7日以前の期間においては、外国人労働者が「一つの勤務形態のみを選択しなければならない」という明確な規定が存在しなかったため、ベトナム法人が「会社内転勤」形態で労働許可証を申請しつつ、給与支払いのために労働契約を締結した場合でも、それが直ちに法令違反と判断される明確な法的根拠はありませんでした。
3. 政令第219/2025/NĐ-CP号の影響
2025年8月7日に政令第219/2025/NĐ-CP号が施行されることにより、税務当局および労働当局は、労働許可証に記載された勤務形態に基づいて、税務および社会保険に関する義務をより緊密に連携させて確認する動きを強めています。
以下は、KMCの主要顧客会社における勤務形態別の税務・保険上の義務の概要です。
労働許可証に記載された勤務形態  | 社会保険・医療保険・労働組合費  | 法人税  | 外国契約者税  | 
労働契約の履行(ベトナム法人が労働契約を締結し、給与を支払う場合)  | 発生する  | 給与費用に関するリスクなし  | 発生しない  | 
会社内転勤だが、ベトナム法人が労働契約を締結し給与を支払う場合  | 発生するリスクあり  | 給与費用が損金算入不可となるリスクあり  | 発生しない  | 
親会社と経済契約/サービス提供契約(ベトナム法人が労働契約を締結せず、給与を支払わず、サービス料のみ支払う場合)  | 発生しない  | リスクなし  | 発生する(10%:法人税5%+付加価値税5%)  | 
4. 義務およびリスクの詳細分析
(1) ベトナム法人が労働契約を締結しない場合
- これは、会社内転勤という形態の本来の性質に即した適正な実施方法です。
 - ただし、ベトナム法人がICT労働者に関連する生活費などの支出を行う場合、これらの費用は会計計上および税務申告の際に正当と認められるよう、慎重に検討・評価する必要があります。
 
(2) ベトナム法人が労働契約を締結する場合
- 法的観点からは、労働契約を締結することにより、当該ICT労働者はもはや「会社内転勤」として扱われず、ベトナム法人が直接雇用する労働者とみなされます。
 - この場合、ベトナム法人は社会保険、医療保険、労働組合費を納付し、個人所得税の源泉徴収および申告を行う義務が生じます。
 - さらに、労働許可証に「会社内転勤」と記載されているにもかかわらず、実際には労働契約を締結していることから、法的性質の整合性に欠けると判断され、税務当局が給与費用を適正な損金として認めない可能性があります。
 
5. ICT労働者に関連する費用について
労働契約を締結しない場合であっても、実務上、ベトナム法人において以下のような費用が発生することがあります。
- 宿泊費、交通費、生活手当などの支援費用
 - 親会社が立替払いした給与・福利厚生費に対する返済(コストリチャージ)
 - 労働許可証やビザの申請費用
 - グループ内合意に基づくサービス料(management fee/cost sharing)
 
(a) 生活費・交通費・住宅費などの支援を行う場合
- これらの支出は、以下の条件を満たす場合、法人税計算上の損金費用とする可能性があります。
- 正規の証憑(領収書、支払証明書など)があること
 - 派遣決定書または明確な費用支援規程があること
 - 個人所得税の源泉徴収および申告を行っていること
 - 当該支出がベトナム国内における事業活動に直接関連していること
 
 - ただし、これらの支出が給与と同等の性質(定期的・固定的な支給など)を持つ場合、または親会社が支給している給与よりも高額な支援金である場合、税務当局から「給与所得」とみなされ、損金不算入とされるリスクがあります。
 
(b) 親会社への給与費用の返済(コストリチャージ)を行う場合
この場合、当該費用はベトナム法人の給与費用と見なされるため、第4項(2)で述べたとおり、リスクが発生する可能性があります。
6. ベトナム法人に対する推奨事項
(1) 労働許可証申請の段階から、外国人労働者の勤務形態を正確に特定すること。
(2) 法的な矛盾を回避するため、ICT労働者とは労働契約を締結しないこと。
(3) 費用が発生する場合には、以下の対応を行うこと。
- 外国人労働者支援に関する社内方針を文書で定めること。
 - コストシェアリング契約、サービス確認書、正規の会計証憑を準備すること。
 - 給与の立替返済またはサービス料支払いがある場合には、外国契約者税 (FCT) の発生可能性を評価すること。
 
(4) 政令第219号施行後は特に、外国人従業員関連の人事書類および関連費用を定期的に見直すこと。
(5) 費用の適法性や損金算入可否について疑義がある場合は、税務・会計の独立専門家に相談し、調査時のリスクを回避すること。
7. 重要な留意事項
⚠本資料の内容は、現行の法令(政令第219/2025/NĐ-CP号を含む)および実務上の運用状況に基づき、総合的に整理・分析したものです。
本記事はあくまで一般的な情報提供および参考目的であり、個別の事案に対する法的助言を代替するものではありません。
特定の事例や詳細な運用方法に関しては、KMC専門チームにご相談の上、貴社の実際の事業モデルに即したリスク評価および税務コンプライアンス体制の整備を行うことを推奨します。
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